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身体にやさしい動物医療とは? -食事・生薬療法の実際-
 
ジェナー動物クリニック 長瀬雅之 院長

 

今回、丹羽療法を動物医療にも取り入れ、丹羽先生と生薬の開発にも関わられているジェナー動物クリニックの院長、長瀬雅之先生が講演でイヌの食事と膠原病やがんにおける生薬治療の実際など、動物医療の現状について、幅広くお話しいただきました。
 
   健康への近道は腸粘膜にやさしいごはん
 
   なぜワンコにとって食事が大切なのか?実は免疫の最前線は、皮膚と腸粘膜なんですよね。(したがって、ワンコのアレルギーの改善のためには)常に腸粘膜にやさしいごはんにしてもらいたいなと思います。

   これがうちの病院で指導している手作り食です。(※写真1参照)お肉は豚コマ肉。ところが、飼い主さん達は豚脂が悪いと勝手に思い込んで、脂の少ないヒレ肉にしてしまうのです。本来ワンコの祖先は、草食動物の筋肉、皮下脂肪、そして内臓を食べいたのですから、筋肉だけではなく、脂と内臓も食べないとダメなんですよね。でも、牛や鶏の脂は、同じ飽和脂肪酸でも、ワンコにとってはちょっとよろしくないんです。
   内臓としては、レバーがいいでしょう。レバーはタンパク質だけはなく、ミネラルとビタミンも非常に多く含まれており、しかし脂は少ない。レバーを食べると、時に下痢するワンコもいるんですが、本来肉食獣ですから、筋肉を食べ、脂肪を食べ、そして内臓を食べてはじめて、ワンコの食事が成り立つと思うんです。もちろん、これらの肉を生で食べちゃダメですよ。

   この食事を食べているワンコたちの血液検査は、すばらしい結果を示すことが多いので、とてもバランスがいいと思います。ただ、ワンコの種類によっては、肝臓の数値や血糖値に異常をきたす場合もあるので、にわか知識だけで、安易にやらない方がいいですね。犬種、体重、年齢、去勢や不妊手術の有無をふまえて、栄養指導を受けましょう。多くの動物病院の先生が、「手作り食はやめなさい!」といのはこうした理由からなんです。

   10歳ぐらいまでの小型犬の場合、タンパク質が4、炭水化物が2、脂質が4の割合の食事が適しています。10歳過ぎるとだんだん腎臓機能が衰えてくるので、タンパク質の配分を3に下げます。すると、タンパク質からの1が余りますので、仕方なく炭水化物にその1を加えます。脂質は4に変わりありません(タンパク質3:炭水化物3:脂質4)。それが、15歳ぐらいまでのウルトラシニアになると、タンパク質を2.5にまで下げなければなりません。
   ワンコにとって、タンパク質と同じくらい大切な栄養素は脂質でしょう。豚脂などの飽和脂肪酸が3に対して、亜麻仁油、シソ油などの不飽和脂肪酸を1の割合で摂取するのがいいとされています。
 
   ワンコのごはん脂質にはこだわりを
 
   ワンコの健康を考えて、大部分の飼い主さんがやってしまうミスが「ヒレ肉」です。しかし、体にいいからといって不飽和脂肪酸だけはしっかり食べさせているのです。豚油を毛嫌いすることよって何か起きると思いますか?胆のうから脂の吸収を助ける胆汁が出ますが、飽和脂肪酸とその胆汁が胆のう内に溜まってしまい、胆泥症になるのです。それが胆石になってしまう可能性もあるわけです。
   ですから脂質、それも飽和脂肪酸である豚脂をしっかり摂取することはとても大事なことなんですよ。
   不飽和脂肪酸ですが、ω‐3という不飽和脂肪酸とω‐6という不飽和脂肪酸があります。ω‐3は、皮膚の健康維持に作用しません。しかし、体の炎症を鎮めたり、腎臓の血流量を上げてくれる賢い脂質です。月見草の油は、皮膚の健康維持を担っているω‐6不飽和脂肪酸の一つです。不飽和脂肪酸の配合比としては、ω‐6が3に対して、ω‐3が1です。つまり、脂質として飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を3:1の割合で摂取させるのですが、不飽和脂肪酸の1をさらに、ω‐6をを3:ω‐3を1の割合で摂取させるのです。これぐらい脂質にこだわらなとダメでございますョ!
   あと、炭水化物は、消化に優れ、さらにGI値が高い白米とカボチャがいいでしょう。サツマイモはシュウ酸が含まれ、食物繊維も多いのであまりワンコに好ましい食材ではないのです。こうして見てみつと、ワンコの食事は我々日本人の理想的な食事とはまったく違うんですね。ヒトの場合、タンパク質2:炭水化物6:脂質2です。このヒト感覚でワンコの手作り食を作ってしまうから、ワンコにとってバランスを大きく欠く食事になってしまうのです。ちなみに、私はどっちかというとワンコの割合である4:2:4を守っているので、こんなにデブになってしまいました(会場笑)。しょうがないですね(笑)。
 
   野菜の彩は信号の色プラス白
 
   ワンコにとって、野菜からの食物繊維が豊富な食事は必ずしも好ましくないので、野菜を沢山入れてはいけません。どっちかというと、ファイトケミカル、すなわちビタミン、ミネラルなどを摂取する目的でいくつかの野菜を入れますが、食物繊維はできるだけ少なくするのが基本です。ワンコの手作り食で一番困るのが、ササミ、キャベツ、サツマイモの組み合わせです。この組み合わせのごはんを与えると、肝臓機能に異常をきたし、シュウ酸カルシウム結晶を全身の血管や腎臓に沈着させてしまいます。したがって、鶏肉、キャベツ、さつまいもはワンコにとっては好ましい食材じゃないんだということが最近分かりました。
   では、どういった野菜を使うべきか?答えは、野菜の色で選ぶのがいいでしょう。当院における食事指導では「使用する野菜の彩りを信号の色プラス白」として説明しています。すなわち、赤は人参、黄色はカボチャとターメリック、緑は小松菜の葉っぱとブロッコリースプラウト、そして白はダイコンです。ブロッコリースプラウトとダイコンは生のまま入れてくださいと指導しています。
 
   ちゃんとした食生活は体に優しい動物医療の前提条件
 

   本来手作り食の最大の目的は、各種栄養素の酸化を最大限に抑えた、いつもフレッシュな食事をワンコに与えることにあります。しかし、いくらフレッシュな手作り食でも、長期間の冷凍による酸化は防げません。せいぜい7日分の冷凍にしてくださいね。そして、「手作り食を冷凍するなら、出来たての食事をあげてはいけません!」と私はいつも指導しています。
   なぜでしょう?作りたては美味しいのですが、冷凍した手作り食は鮮度がそれより落ちるため、味覚と嗅覚に優れたワンコは「冷凍ものは、いらん!」って言うからです(会場笑)。

   手作り食にすると、ワンコは必ず水を飲まなくなります。でもそれでは困ります。例えば、膀胱結石の原因である結晶が膀胱内に少し溜まっても、大量のおしっこをすれば、大きな問題にはならないからです。やはり1日体重1sあたり40〜60tのお水を手作り食に加えた方がいいでしょう。5sのワンコに換算すると、200〜300t、標準体重のヒト50sに換算すると2000〜3000tですから、結構な量であることが分かります。

   不飽和脂肪酸は絶対に加熱してはいけません。シソ油や月見草オイルは、酸化は激しい油ですから、開封後は冷蔵庫で1ヵ月以内に使ってください。脂質に徹底してこだわることが、手作り食の要なんです。豚の脂などの固まる油である飽和脂肪酸と、シソや月見草油などの固まらない不飽和脂肪酸の配分を出来る限り3:1に設定した手作り食にする。さらに、これらの油は出来る限り酸化させない。これがワンコの健康維持に必要不可欠な条件です。
   手作り食にチャレンジした飼い主さんは、「まず体臭がなくなった」、「ウンチが臭わなくなったし、量も少なくなった」、

「皮膚や被毛がキレイになった」、「空腹時の嘔吐がなくなった」、あるいは「目がきれいになってイキイキした」という感想をよく聞かせてくれます。結論としては、体にやさしい動物医療というのは、前提にまず「食生活がちゃんとしていなければダメだ」ということです。つまり、動物の体に有益で、酸化していない栄養素をしっかり摂取していることが大前提で、その上で生薬療法だとか、体に負担がない治療が実施可能になるのです。極端にいえば、大酒飲みが具合が悪くなって、点滴してもらったら、スッキリしてまた「ビールがうまい」と言っているのと同じことですよね。
 
   正しい食生活のうえに体にやさしい生薬治療が成り立つ
 
   体にやさいい動物医療とは、毎日の食生活がしっかりしていなければ成立しないものです。つまり、動物の身体に有益な新鮮な油、さらに良質なタンパク質、炭水化物、ビタミン、ミネラルの摂取がまず大前提にあって、そのうえで初めて生薬療法などの体に負担が少ない治療が効果を発揮するのです。

   ジェナー動物クリニックでも、丹羽先生が毎日の治療にお使いになっている生薬を治療に用いています(表1)。代表的なものをご紹介します。はじめに動物用にアレンジしたSOD様作用食品で、獣医師専売サプリメントとなっています。
   丹羽先生と私で開発した春山は、タキソテールという抗癌剤の成分が含まれているので、サプリメントとして市販はできませんが、免疫調整作用を有する副作用のない生薬です。NK-3は冬虫夏草が主成分で、動物の悪性腫瘍に対する治験を最近開始したばかりの生薬です。BG-105は、

寄生すると白樺の木を腐らせるほど生命力があるチャーガから作った生薬で、免疫を活性化する作用が強くがん治療にはよく使っています。BG-103はアガリクス茸から作った生薬で、やはり免疫を活性化したい時によく使っています。その他の生薬は、これまで丹羽先生ががん治療に必ず用いている代表的な生薬、すなわちH-TTと枇杷の種を煎じたBWSです。
   これら生薬の適応症について説明します。(ヒトの)アレルギーの場合、SODとルイボスTXを使うのが一般的ですが、イヌやネコのアレルギーにはこれらの生薬を処方することはほとんどありません。基本的に「正しい食生活、正しい外用法を実践して、あとは自力で治ってください!」という気持ちで治療しているんです。ただ、自己免疫疾患となると、薬を使わないと生命が危ぶまれますよね。自己免疫疾患では、SODと春山がかなり有効的です。
   がんの場合では、がんの種類によって異なりますが、SOD、春山、NK3、H-TT、BWS、BG-105などを組み合わせて使っています。動物の場合も、がん治療を一切せずに、「好きなご飯を好きなだけ食べて、残り少ない時間を楽しく過ごしましょうね」という選択肢だってもちろんあるわけです。治療法にはいろいろな選択肢があって、どれを選ぶかは飼い主さんに任せています。
 
   自己免疫疾患にはSOD+春山
 

   自己免疫疾患に対する生薬療法の効果についてお話しします。ヒトではリウマチと言いますが、動物では、ヒトのリウマチに病状が極めて似ていることから、リウマチ様関節炎といいます。本症には生薬療法がとても効きます。SOD単独で、症状の著しい改善が見れる症例が大部分を占めています。「なぜこれほどまで効くのか?」その根拠を一生懸命調べていますが、残念なことにまだ解明できていません。
   SLE(全身性エリテマトーデス)では、SOD+春山の生薬療法が有効です。

しかし、急性期や増悪期にはスパイス的に低用量のステロイドや免疫抑制剤を使わざる得ない場合もあります。DLE(円板状エリテマトーデス)は、獣医領域において診断や病態生理が必ずしも明確でない自己免疫疾患です。本症では、SOD+春山の生薬療法、あるいはメサラジンやプレドニゾロンなどの化学療法とこれらの生薬の組み合わせが有効ですが、時に激烈な症状を抑えきれず、助けられないこともあります。私の実感として、DLEに罹患したメスの場合は、治療に対する反応が良好ですが、オスの場合は反応が非常に鈍く、命を失うことがあるようです。
   無菌性皮下脂肪織炎や天疱瘡といった皮膚における自己免疫疾患では、プレドニゾロンやアザチオプリンなどの化学療法、およびSOD+春山の生薬療法を組み合わせて症状を改善させた後に、SOD+春山の生薬療法で維持する方法が極めて有効です。一方、赤血球が壊されてしまうAIHA(免疫介在性溶血性貧血)、あるいは血小板が壊されてしまうITP(免疫介在性血小板減少症)では、生薬を服用して効くか効かないかなんてのんびりしたこと言っていられませんね。貧血を起こしてぶっ倒れていたり、出血が止まらないのですから、「生薬を飲みなさい」と言ったって飲める訳がありません。治療の初期段階から化学療法と輸血をするので、これらの疾患における生薬療法いついては評価ができません。症状が安定した後に、SOD単独、あるいはSOD+春山を使うことがありますが、それら生薬が効いて良好な状態を維持しているのか、あるいは初期治療の化学療法や輸血をしたことで維持できているのかが区別ができないのです。
   MG(重症筋無力症)では、臭化ピリドスチグミン単独投与より、SOD+春山の生薬療法を組み合わせた方が、経過は明らかに良好だと思われます。膜性糸球体腎炎などの腎臓における自己免疫疾患に対する生薬療法については、症例数が少なく評価ができていません。その上、本症では嘔吐・悪心があるため、生薬を服用することがなかなか困難なのです。
   多くの自己免疫疾患の症例において、SOD+春山の生薬療法は副作用の心配がなく、その上、ステロイドや免疫抑制剤の使用量を確実に少なく、あるいはなくす良好な治療効果を示すと思われます。
   (写真を見せながら)、これが代表的な自己免疫疾患のワンコですが、痛々しいですよね。このワンコは、無菌性皮下脂肪織炎に加えて血小板減少症も併発しているので、破けた皮膚から血が吹き出てきています。さらに眼内出血とブドウ膜炎のため、片目は失明していました。初期治療では、免疫抑制剤のアザチオプリンを使いましたが、基本的にはSOD+春山の生薬療法が主体です。それで、こんなに元気になりました。(治療後の写真を指して)立ち方も凛々しくなりました。肌もキレイになってきましたよね。すごいと思いませんか?
 
   がん治療における生薬療法は?
 
   次はがん治療における生薬療法の実際についてお話ししましょう。すべてのがん治療に共通した概念は「治るとはとても言えない」、すなわち「延命手段にすぎない」ということです。しかし、その延命手段によって、8年以上、ヒトに置き換えると実に40年以上良好な状態を保っているとすると、「治る」とか「延命」といった単純な概念には属さない「がんと共存」が実現していると言えるのではないでしょうか。イヌにおけるMCT(肥満細胞腫)は間違いなく悪性腫瘍で、かなり広いマージンを設定した手術、放射線療法、抗がん剤、あるいはc−kitを標的分子とした標的分子治療が必要といわれる代表的ながんです。しかし、私は当院を開業してから10年以上、未治療の`CTに対して前記の治療を実施したことがないのです。すなわち、SOD、H-TT、そして春山を組み合わせた生薬療法が恐ろしく効きます。正確には、「がんは存在しているけど、身体に一切悪さをしていないで、年齢なりに元気に過ごしている」と申し上げた方がいいでしょう。
   ネコのMCT患者の中には治療開始から5年を経過した子がいますが、16歳にしては元気に過ごしていますね。MCTは、自虐、生検、手術等の強い刺激が加わると細胞活性が一気に高まり、リンパ節に容易に転移します。こうなると、いかなる治療を施しても、大した効果が得られないのです。リンパ節ではがん細胞のT、B、NK型によっても異なりますが、SOD、H-TT、そして春山といった生薬、低用量のステロイド、そして21〜28日毎のビンクリスチンやL-アスパラギナーゼの組み合わせで、COAP(サイクロフォスファミド・ビンクリスチン・アドリアマイシン・プレドニゾロン)療法に劣らない延命効果が期待できると思います。
   また、生薬療法を主軸に置くことにより、副作用が出やすい化学療法に依存せずに、長期間QOL(生活の質)を維持できることが利点と思われます。ワンコのがんで最も恐ろしい肝・脾臓の血管肉腫でもあえて手術をしないで、SOD、H-TT、春山、NK-3、BWSといった生薬、最低限の化学療法(サイクロフォスファミドとビンクリスチン、時にアドリアマイシン)の組み合わせで少なくとも3〜6倍の延命効果が期待できます。とても不思議なのですが、本腫瘍では、ほとんどの症例で摘出手術後2〜3ヶ月で亡くなるのです。私はこれを「シンデレラタイム」と呼んでいます。
   メラノーマ(悪性黒色腫)は口腔に頻発する黒いがんですが、無色素性黒色腫という、色素のないがんもあり、一般に無色素性黒色腫のほうが悪性度が高いと言われています。本腫瘍では、SOD、H-TT、NK-3といった生薬と活性化リンパ球療法を組み合わせることにより、がん縮小および肺への転移抑制効果がみられます。
   現在のところ、我々の生薬療法で治療効果がみられるイヌ・ネコのがんは、ザルコーマ(肉腫)なんですね。乳がん、扁平上皮がん、移行上皮がんは症例数が少なく、まだ評価対象には至っていません。また、骨肉腫や肝細胞がんはさらに症例が少ないのが現状です。脳腫瘍については、我々の生薬がBBB(血液脳関門)を通過できるか否かの評価がまず必要だと思われます。少なくとも、マウスの実験では、SODがBBBを通過することを確認しています。
   皆さんは「生薬は、副作用が少なく、何となく効くんじゃないか」という漠然としたイメージをお持ちだと思います。ですが、身体にやさしい生薬が十分な効果を発揮する前提条件として、「身体にやさしい生活をしていて、それでも健康を害する場合」であることを忘れないでください。ワンコのアレルギー性疾患では食生活の改善、シャンプー・入浴法やワクチネーションの見直しをすると、多くの症例で著しい改善がみられるため、生薬の服用は必要がないんです。自己免疫疾患では、積極的に服用した方がいいでしょう。とくに幼年期に発症した場合、骨の発育に影響を与えるステロイドを使わずしてほとんどの症例で完治が望めます。しかし、がんの完治は絶対ありえない。だからがんを治すなんておこがましいことは言わないで「QOLが維持できて、延命効果が期待できる治療法であれば、積極的に取り入れるべき」というのが私の持論です。ヒトもワンコも苦しい思いをするより、少しでも楽しく過ごした方がいいですよね。

 

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