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息子の死で患者の
家族の苦しみに気づく

 
そしたら自分の子供ががんになった。亡くなる2ヵ月前。血液のがん細胞が90パーセント。僕は医者だからわかる。もう絶対絶命。メシは食わない。あばら骨が見えてガイコツみたいにやせ細り、抗がん剤でぼろぼろになった体でベットの上でのたうち回っている。お父ちゃん苦しい、痛い、助けてくれー!と叫んでいる。もう親にとっては身を引き裂かれる想いです。生きる死ぬということではないんです。この一瞬。血液の1t、筋肉の1g、なんとかしてやりたいと。だからおかゆをひとさじ手にして、いやがる子供の口元に持って行って、おどしたり、すかしたりしながら何とか口に入れてもらおうと必死にやっているわけです。30分40分やっているわけです。
   そんな光景を主治医の先生、師長さんが見ているんです。「まあ丹羽先生、国際学会の招待講演までして、一流雑誌に医学論文をいっぱい発表して、医学の枠を極めたあの丹羽先生が、子供さんの血液のがん細胞が90%を越しているのに、おかゆのさじを持ってなだめすかしながらおろおろしている。なんでこんな愚かなことしているんだろう」とバカにした顔をして私の方を見ていました。
   そんなことくらい私だって分かっている。120%わかっている。死ぬ事も分かっている。それでも肉親にとったら、かけがえのない命です。神になんとかこの子を助けて下さいと祈りますよ。頭では死ぬことが分かっていても、心では最後まで分からないんです。これが患者さんの家族の心なんです。
   私は、主治医の先生や師長さんにバカにした顔で見つめられた時、ああ、今まで私が診てきた患者さんの家族もみんなこうだった、みんななんとかしてくれとしがみついてきた。いままでなんで死ぬことが分からないんだと逃げ回って、患者さんの家族に申し訳ないと。
   以来、私は毎日毎日、神様にどうか剛のように苦しんで亡くなっていくがん患者さんが一人でもなくなりましように、と祈っています。私のように心に悲しみを残して生きる家族が一組でもなくなりますようにと祈っています。
   ただね、心ならずして亡くなられる患者さんもおられるけど、私の診察の心は助けたい一途でやっております。それは信じてついて来て頂きたい。患者さんのご家族にはほとんど感謝されます。文句を言う人はほとんどいないです。だいたい理解してきてくれます。「先生、この病院に来て2ヵ月でご飯も食べられて、抗がん剤で苦しむことなく逝けてありがとうございました」と言われます。

 

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