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がんは患者の
家族も苦しめる

 
私も、こうして毎日、なんとか患者さんを助けようとがんばっているんです。お恥ずかしい次第で、神様にもっともっと力をお与えくださいとお祈りを毎日しながら治療をやっているわけです。がんになった患者さんとそのご家族は、なんと言われようと、やっぱり助かってほしいんです。どれだけ医者がダメだと言っても、頭で分かってももう心ではわからないんです。先生、なんとかして下さい、という心しかないんです。私は丹羽療法を確立する前、今から30年前までは抗がん剤治療をしていました。目の前で何百人という患者さんが亡くなられました。亡くなる時はだいたい分かります。僕は患者さんには余命は言いません。だって、みなさん、余命1ヵ月と言われたらどうします?生きていけますか?僕は絶対に無理です。僕はそんなことを言われたら、遺言を書いてからモルヒネを打って首をつって自殺します。生きていたってしょうがない。自分の運命を知ることほど残酷なことはない。ただね、ご家族には言っておかないといけない。例えば胃がんの末期のおじさんが入院している。その奥さんを前に、これまでがんばって治療してきたけど、もうどうしてもダメです。胃の入り口ががんで詰まっているから、何を食べても吐きますよと。それから胃の後ろの腰の骨にがんが転移していて、腰の骨の中には座骨神経と言って、太い神経が走っている。これが腰痛、足痛のいちばんの原因になる神経。ここへがんが転移して、痛み止めはもう何も効きません。あと3週間です、あきらめてくださいと言う。
   そう言うと、10人中5人はあきらめます。しかしあとの5人はダメ。なんぼ言っても、頭で分かっていても心がついていかない。やっぱり助かってほしんです。狭い待合室に何十人と患者さんが私の診察を待っている。何時間も待っているんです。そんななか、印籠を渡して数時間後に、順番も待たずに私の診察室にずかずかと入って来て、診察中の私の腕を引っ張って「先生!うちの父ちゃん、もう何も食べていない。おかゆ一口でも食べる方法はないんですか?痛い痛いと言ってかわいそうだ。なんとか痛み止めをしてもらえないか」と言って連れて行こうとする。待ってくれと。3時間前に胃の出口はすべて詰まったといっただろ。何を食べても全部、吐くだけだというのに、なんと物わかりの悪い人だろう。こんな人に捕まっていたら、診察もできない。だから私は病院中を逃げ回っていた。
   私は、この年になっても国際医学学会に発表する論文英文で作って発表しているんですよ。医者になってから毎晩、寝るのは3時4時です。夜の10時、11時まで患者さんを診て、メシを食べて、それから勉強するんです。日曜祭日も、盆暮れもない。移動中の飛行機の中でも論文を書いたりしている。だから、こんな物わかりの悪い家族につかまっていたら寝るのが朝になってしまう。寝不足でこっちが死んでしまう。そう思って逃げ回っていたんです。

 

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