「研究会ではおもしろいことがいろいろ出てきましたね。どうやって西洋医学と漢方を融合していこうか、といったときに、漢方を理解する西洋医学の先生もいるけど、全く、理解しない先生もいます。「いかがわしい」「エビデンスがあるのか」「効く証拠があるのか」というんです。漢方は効く証拠、エビデンスというものを見せにくいです。なぜかとういうとエビデンスを取りたくても取れないから。西洋医学ではこの薬は効きますよ、というのはどういうことかというと、同じような症状の人を100人なら100人集めます。うち半分には新薬を使います。残り半分には偽薬を使います。それで変化を見て、偽薬よりちょっと効果があるというと、その薬は効きます、となるのですね。これが西洋医学的なエビデンスの取り方です。ところが漢方はその手法は使えないんです。なぜならば(同じ病でも)みんな一人ひとり違う処方をするからです。
漢方の大きな考え方の中には「証」というのがあります。「証」とは証明の証です。証というのは人間の体質ですね。汗っかきの人もいれば、寒がりな人もいる、よく笑う人もいれば、むっつりしている人もいる。西洋医学ではそういう一人ひとりのちがいというのは全部無視します。西洋医学では男と女の差もつけていない。よく考えたらおかしいことですよね。漢方は「証」に合わせて処方していくんです。さらに使う薬がまた生薬なので、品質が必ずしも均一ではない。西洋医学で使う薬は化学物質なので同じものを作りやすい。だからデータが摂りやすい。ところが、生薬はワインと同じ。今年のワインはおいしい、今年のワインはすっぱい、いろいろあるじゃないですか。生薬とはそういうものですから、品質は一定じゃない。だからデータを分析できない。だからエビデンスはとれない、といだけなんです。
西洋医学では分からないものだから「いかがわしい」で切り捨てる。では、どうして漢方は効いているのか、そこに目は向けられないのか?ということで、本当に融合させるためには、なんとか漢方でエビデンスがとれないか、といったときに出てきたのが、ゲノム解析です。
ゲノム解析といのは要するに遺伝子解析です。西洋医学の最先端で今何をやっているかというと、それぞれ個々の遺伝子情報から一人ひとりに的確に合わせた薬を使っていくことです。でも考えてみたら、漢方は昔から個別対応でした。これを融合させ、漢方のデータもとれないのか、といったら、ゲノム解析の最先端の人はできるといいました。「それはスーパーコンピュータ」を使うんです。だからスーパーコンピュータは1番じゃなきゃだめなんです。2番じゃだめなんです(笑)。スーパーコンピュータに一人ひとりの知っている情報を全部入れるんです。それをすごい速度で解析するんですね。すると個別化のエビデンスが出るんです。東大の最先端のスーパーコンピュータの教授がいうんです。やっぱりそうすると、これから目指すべき最先端の医療は個別化医療かなと。これこそがまさに東洋医学と西洋医学の融合、新しい形だな、そこを目指そうということになりました。不思議なことにね、われわれがもともと考えていたのは、漢方をどうやって西洋医学に合わせるかでした。それも大事だけれども、漢方の考え方に西洋医学を合わせることこそがまさに融合、われわれが目指すべき新しい医療ではないか、と。そうするといろいろなことが見えてきました」
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