第4章  過剰な活性酸素で起こる病気


 
  本章では、活性酸素の関連した病気を、まとめてやさしくお話しします。ただ、病気の90パーセント近くが直接、あるいは間接的に過剰な活性酸素によって惹き起こされている現状なので、全ての病気を挙げて説明したのでは枚挙にいとまがありません。
  従って、ここでは読者の皆さんに親しみを覚えていただきながら理解していただくために、主として、一般によくみられる病気や、皆さんが将来かかる可能性の大きい病気を中心に、活性酸素や過酸化脂質との関連を説明していくことにします。
 

 1  活性酸素による慢性刺激が癌を惹き起こす

 
  過剰に体内で作り出された活性酸素が惹き起こす病気で、最も注目すべきものが癌ではないでしょうか。
  癌発生の原因については、どの文献でも、『慢性刺激』と『変異原』の存在という二つの条件が必要とされています。
  慢性刺激というのは、皮膚や細胞組織を繰り返し傷つけるような刺激をいいます。皮膚や細胞組織が傷つけられると修復しようとする働きがあります。傷を治して修復させようとする修復機転が起こり、欠損部(潰瘍部)に増殖作用が起こるのです。
  この同じ箇所を、永く繰り返して(慢性)刺激すると、増殖作用の力が、ある日突然、化け物のような力となり、岩のように組織が盛りあがります。これが癌なのです。
  このように癌の発生には修復・増殖を起こす『誘い水』とでもいうべき慢性刺激の反復が必要不可欠になります。
  しかし、いくら慢性刺激の誘い水をかけたとしても、癌が発生する前日までは、正常な細胞であって、ある日突然、正常な細胞が癌細胞に突然変異するということです。すなわち、そこには正常な細胞から、癌という細胞へ突然変異を起こした原因の介在(存在)が必要となるわけです。それを変異原(の介在)と呼び、癌発生のための第2の必須条件となるのです。
  変異原には、前章の、放射線やパラコートが体内で活性酸素を産生する経緯に関連しています。致死量のパラコートでなく、散布している人や周囲の人々は、ほんの少しずつパラコートを鼻から吸うことで、微量の化学物質を体内に取り込んでいます。このことは様々な有害化学物質に囲まれて生活している現代の私達には、パラコート以外の殺虫剤や医薬品にも当てはまることです。このような化学物質が細胞の核に少しづつ蓄積され、何十年か、あるいは、世代を超え、核で活性酸素が少しずつ作られることで、核を若干傷つけます。
  核のDNAには、大切な遺伝子があり、このDNAが傷つけられると遺伝子も傷つきます。遺伝子が正常な場合は、正常な赤ちゃんが産まれますが、遺伝子が少し傷つくと、間違った遺伝の命令により奇形が発生します。つまり、薬物等の化学物質を体内に摂取していると、死ぬことはなくても、細胞内の化学的変化によって、奇形が発生するのです。
  パラコートなどの有害化学物質のDNAへの蓄積が、DNAを完全に破壊しない範囲の少量であり、かつ、奇形児を発生させるよりも多い、かなりの量が蓄積されていくと、遺伝子・DNAは死滅しなくても、かなり高度に傷つけられます。
  すると遺伝子が完全に狂った伝達命令が伝わるようになり、人間の組織から突然変異した癌の組織の発生となり、『突然変異の原因』、つまり変異原といいます。
  こうしてみますと、『死』、『発癌』、『奇形』の三つの現象は全く同じ原因で起こり、その発現の差は、化学物質にさらされる量と、期間の違いであり、その差異によってそのうちの何かが出現するが決定されるわけです。
  このことはまた、放射線障害においても同様で、チェルノブイリの原発事故では、事故直後に放射線を浴びて死亡した人、数年後に癌や白血病で死亡した人、そして新生児に奇形が多発していることからも、化学物質と放射線が体内に及ぼす作用機序はまったく同じなのです。
  発癌条件の慢性刺激は、菌やウィルスを瞬時に溶かす活性酸素に限りません。濃いコーヒーや冷たい氷類で年中胃壁に刺激を加えることでも胃壁への慢性刺激になり、胃癌発生の条件になります。このように活性酸素以外にも多くの原因があります。
  また、変異原にしても、最近の環境汚染とともに癌患者が増加したことと、発癌物質の細胞の核のDNAでの作用機序が解明されてきたため、汚染物質による活性酸素がその原因の大半と考えられていますが、活性酸素の研究がなされていなかった頃は、変異原の主犯格にはウィルスが第一に挙げられていました。このウィルスは遺伝子の性格やリンパ球の性格を変える力があるので、変異原の原因としてウィルス説は根強く残っています。
  発癌の原因を正確に把握するのは非常にむずかしく、活性酸素以外に、体質、遺伝、環境汚染、食生活、精神的影響など多くの要因が絡み合って発生している、というのが正しい理解の仕方です。
  しかし、近年の環境汚染の悪化に比例して癌が増加してきた事実と、その汚染物質によって増殖されてきた活性酸素が、発癌条件の慢性刺激と変異原の両者の条件を満たすことから、環境汚染と、それにより発生する過剰な活性酸素が癌増加の重要犯人の一人であることは疑う余地がないと思われます。
  また、最近、特に肺癌が増加しています。この肺癌は、他の癌と少し異なり、原因などに特別な考慮が必要です。
  肺癌の病因といえば、喫煙があります。喫煙によって、タールが肺に吸引されます。肺には食細胞=マクロファージが非常に多くて、この食細胞が大量に動員されて、異物であるタールを処理します。
  ところが、タールはヤニのようにネバネバして溶けにくい物質で、これを貧食する食細胞は、溶かそうと必死になって大量の活性酸素を出します。この活性酸素が食細胞の外に出て肺の壁を傷つけ、先の発癌条件の格好の慢性刺激になるのです。
  一説には、一本煙草を吸うと、約百兆個の活性酸素が肺でできるともいわれています。ですから、ヘビースモーカーは当然肺病になる確率が高いのです。
  これは、窒素化合物(NOx)が原因で、この犯人は、自動車の排気ガスと重油を焚く石油化学工業の工場です。
  窒素酸化物は気体なので、呼吸によって体内に入りますから、主に肺に付着します。窒素酸化物は学会でも活性酸素を大量に作りだす物質として、注目される化学物質で、丹羽博士もアトピー性皮膚炎の悪化、増加の原因に挙げています。
  こうした環境汚染とそこから生まれる活性酸素は、私達個々人ではどうのもなりません。最善の策として、環境汚染で発生する活性酸素を取り除く有効な活性酸素除去剤を日常的に摂ること、このことこそ、癌を予防する最も手近な防御法だと思います。