第3章  活性酸素の増加要因


 3  放射線はDNAを破壊する

 
  動植物すべて死滅させる、原爆投下に伴った恐ろしい放射線や、最近多発する原発事故による放射線障害のメカニズムを解明すると、活性酸素にいきつきます。活性酸素を発生することで動・植物の細胞に強力な障害を惹き起こし、死に至らしめるのです。
  すべての動・植物の細胞の最も大切部位を核といいます。その核のまた最も大切なものに、遺伝子があります。この遺伝子は蛋白質核酸のDNAから成り、細胞の分化・増殖をつかさどるところです。
  放射線は、後述する化学物質とその作用機序は全く同じで、活性酸素の中で2番目に強力なハイドロオキシ・ラディカル(OH・)を作って、動・植物の細胞の最も中枢の中枢である核のDNAを溶かして、これを破壊するのです。そのために放射線を大量、直接に照射された動・植物はたちまち死滅してしまいます。
  原爆のような大量の放射線を被曝せずとも、ほんの少量でも長期的に放射線を被曝する(例えば原子力発電所の微量の放射能漏れにさらされた人やX線技師など)ことで、DNAの遺伝子が傷つけられた状態で、生き残ります。そうしますと、遺伝子からの命令伝達が狂いはじめ、奇形の発生や、突然変異・発癌の原因となります。
  しかしながら、この原理を利用して放射線は治療や検査のも使われます。コバルト療法、放射線療法と呼ばれ、放射線を癌細胞に照射することで癌細胞の中枢である核のDNAがOH・に溶かされ、癌細胞を死滅させるのです。

放射線、化学物質の細胞障害
 

  とはいえ癌というのは、同じ身体の中に正常な細胞とそれより何十倍も強力で生命力の強い、岩みたいな化け物の細胞が共存していることであり、化学療法であっても、放射線であっても、癌患者に使えば、癌細胞の近くの正常な細胞も癌細胞と同様に化学薬品や放射線に曝かされることになります。両者の力関係から、癌細胞がやっと弱りかけた時はもう、正常な細胞は死滅寸前の状態になってしますので、ここで治療を中止しなければなりません。せっかく弱りかけた癌細胞は元の元気な姿に戻ってしまうのです。
  したがって癌も完治せずに死亡につながってしまいかねません。癌細胞に効く治療法には薬などの療法も含めいくらでもあります。しかし、癌細胞が死ぬ前に人間が先に死んでしまうのです。これこそ放射線療法や抗癌剤のtotal killing(皆殺し療法)と呼ばれる所以なのです。
  最近では、放射線による癌の治療は、放射する放射線の線量も改良され、末端の臓器だけではなく、多くの種類の癌の治療にも使われています。しかし、いくら放射線治療が改良されたかれといっても、体の全体、あるいは中心部に放射線が放射されますと、やはり癌細胞だけでなく、広範囲に人間の正常な細胞をも殺す結果を招いているのが現実です。
  いずれにしても、極く小型の原子爆弾を患者さんにぶつけているのと同じ原理が作用しているのです。それゆえ、コベルト療法、放射線療法を一度経験された患者さんは、なかなか2度目の治療を受けようとされません。コバルト療法をやると、『もうしんどくて、しんどくてたまらない』ということなのです。もちろん、倦怠感を訴えるだけでなく、正常な人間の細胞、即ち、大切な出血を止める血小板、ばい菌・ウィルスと戦う食細胞やリンパ球が極端に減少してしまうので、大変な問題をはらんでいるわけです。
  さらに重要な問題は、大量・充分でない(細胞の核のDNAが溶解してしまわないくらいの量の)放射線を浴びた細胞は、死滅は免れてもDNAにのっている大切な遺伝子が傷つけられているということです。
  放射線治療をされて生き残った細胞はやはり核のDNAの遺伝子が傷ついたままで生存し、ここの遺伝子の傷は、奇形、さらに発癌の原因になるのです。そのため何度も放射線を浴び、それで生き続けていることは、どんどん新しい癌を作ることにもなるのです。
  大量の放射線治療で死んでしまうのももちろん困りますが、癌の治療をしながら新しい癌をさらに作っているとは、全く恐ろしい落とし穴なのです。
  癌治療において専門家でさえも、多量であれば副作用で死亡することはわかっていても、正常細胞が少量の

レントゲン照射と寿命の短縮
 

胸部X‐P……1.5日
胃 透 視……1.5年
  C    T  ……150日

被曝によって癌化することはあまり気づかれていません。放射線が細胞の中の核に及んで活性酸素を発生させDNAを傷つけるメカニズムは、丹羽博士の研究によるところが多く、丹羽博士はまた、健常人に対する放射線を利用したCT検査や胃透視についても早くから警鐘を鳴らしています。