最近、現代病の原因として私たちの体内にもとからある『活性酸素』が注目されています。そもそもこの、病気を惹き起こす悪玉の『活性酸素』の研究は1950年代にアメリカの著名な生科学者フリードビッヒらによって本格的に始まりました。その後、体内で増加した『活性酸素』が生体に危害を加えそうになると、細胞の核で『SOD』(「super
oxide dismutase」スーパーオキサイド・ディスムターゼ)と呼ばれる酵素が作られ、『活性酸素』を除去する働きのあることを、フリードリッヒの一番弟子マッコードが実験によって証明し発表したのは1969年になってのことでした。
ところで、この『活性酸素』は体内の防衛反応として産生されるものですが、その発生の仕組みと影響は第2章で詳しく取り上げますが、この『活性酸素』に脂質が反応して『過酸化脂質』が発生します。体の新陳代謝に必要な物質ではありますが、過剰になれば『活性酸素』と同様、健康に深刻な影響を及ぼします。
しかし、『活性酸素』や『SOD酵素』、『過酸化脂質』についての研究は医学ではなく、もっぱら生化学界において取り扱われてきました。おなじ医学部の出身であっても、日々、病気の患者と相対している臨床医と異なり、生命化学全般、つまり動物・植物が対象となる生化学界においての研究だったわけです。
このことは、長い間(1970年代後半まで)『活性酸素』や『SOD』が人間の病気としての解明の範疇に入ることなく、臨床(病気)と関連付けられることもなく研究されていたことを意味しています。生命体の中の酵素の働きを分析しても、病理学的な発生や治療の研究対象にはならないまま年月が過ぎていたのでした。
ただ、その頃から公害・環境問題への関心とともに、一般の科学者にあっても、癌との関連において『活性酸素』に注目されていました。増加する環境汚染と化学物質によって、私たちの体内で異常に大量の『活性酸素』が作り出され、超期間にわたり慢性刺激となって発癌する仕組みが解明されていきました。
1970年代後半になり、ようやく日本で当時の名古屋大学の生化学教授八木國男先生により、体内での『過酸化脂質』の増加が糖尿病や血管障害、子癇、白内障、肝障害などの発生要因であることを、生化学の動物実験をもとに発表されました。
さらに1979年には、アメリカの小児科医ボクサー氏が、「過剰に産生されたH2O2が赤血球を破壊するため発生したもの」(glutathione
deficiency
disease)という小児の重症の貧血が『活性酸素』(H2O2)の増加で起こるという、めったにみられない珍しい症例を発表したのです。
この両者の研究報告こそ、生体で過剰な『過酸化脂質』や『活性酸素』によって発生する病気の最初の報告でしたが、一方は生化学における実験にとどまり臨床実験に至らず、ボクサー氏の発表も特異な症例として取り扱われていました。 |