アトピーの治療には
皮膚の保湿や防御策が重要だ

川島 真・東京女子医科大皮膚科教授:週間朝日(93-06-11)から

 

  アトピー性皮膚炎に関する、最先端の現代医療内容ということで、川島 真・東京女子医科大皮膚科教授が『先端医療』として、週間朝日に掲載した内容です。アトピーの概略や治療薬の概要について理解できます。

 

 コ メ ン ト :丹羽博士による「過酸化脂質による皮膚の水分保持機能の低下」と本項・川島博士による「セラミドの減少による皮膚の水分保持機能の低下」はほぼ同義で、皮膚の保湿機能低下がアトピーの主因です。将来は、このセラミドを外から補ってやることで、皮膚の機能が回復できるようになるかもしれません。

 

ア ト ピ ー の 特 徴
@皮膚が乾燥しやすい・A皮膚の防御機能の低下

 
■ アトピー皮膚は乾燥皮膚と防御機能低下
  アトピー性皮膚炎の患者には、共通した二つの特徴があります。一つは正常人に比べて皮膚が乾燥しやすいこと、もう一つは皮膚の防御機能が落ちていることで、「アトピー皮膚」ともいわれます。
 
■ アトピー皮膚に誘因が作用、慢性湿疹が
  ダニホコリ発汗ストレスなどの誘因が存在すると、慢性の湿疹が生じます。
 
■ 皮膚各層の水分保持機能が悪い
  皮膚の表面には角層という硬い蛋白の層があり、外からの刺激物質の侵入を防いだり、水分保持の働きをしています。アトピーの人では、この角層間を埋めて層状構造を成しているセラミドという脂質が減っていることを、私たちは突きとめています。

 

 
アトピー性皮膚炎治療の投与方法例

 
■ アトピーの根本的な治療は無理!
  今の段階では、アトピー皮膚を根本的に変えるのは無理ですから、そういう体質とうまく付き合える状態を作ることが治療のポイントです。
 コ メ ン ト :アトピー性皮膚炎は、抗原抗体反応(外部からの刺激に対し、生体中に自己を守る物質が出来る)のため、通常では完治ということはありえません。まず、その患者にとって何がメインの悪化因子になるのかを調べます。たとえは、ダニが疑われる人なら、その対策から始めます。標準的な治療法を説明しましょう。

 
顔面の坑炎症剤
 
@ステロイド外用剤
  現在起こっている炎症を押さえるには、やはりステロイド外用剤が最も有効です。副作用が問題となるのは、主に顔面での使用です。長く使っていると、血管が拡張して赤ら顔になったり、ニキビ様の発疹が出たりします。顔には弱いステロイド外用剤を短期間だけ使うのが原則です。
 コ メ ン ト :長期間使用では局所的副作用(皮膚が薄くなり、破れやすくなる)があり、大量使用では全身的副作用(感染症や内出血、顔がむくむ、ムーンフェイス、毛深くなるなど)が現われることがあります。従って、本剤の使用には、医師の指示に従うことが大切です。
 
A非ステロイド外用剤
  顔面などには、非ステロイド系の外用剤も使われますが、坑炎症作用が弱いのと、しばしばカブレを起こすのが欠点です。カブレをアトピーの悪化と勘違いして、さらに塗り続け、かえって重症になることもあるので注意を。

 
顔面の保湿対策
 
  炎症が治まったあとは、ステロイド以外の外用液に切り替え、皮膚の乾燥と防衛機能の低下を補うことが大切です。保湿のためによく使われるのが、白色ワセリンです。皮膚に膜を作って、異物の侵入や水分の蒸発を防ぎます。また、尿素軟膏も水分保持効果があります。最近はヒルドイドという軟膏もつかわれるようになってきました。

 
かゆみ止め
 
  かゆいと、引っ掻いて悪化の原因にもなります。かゆみ止めには、坑ヒスタミン剤や坑アレルギー剤を内服します。
 
○坑アレルギー剤
  坑アレルギー剤は、肥満細胞からの炎症起因物質の放出を抑制する働きがあるとされています。大きな副作用はありませんが、ときに眠気が出るので運転する人などは注意が必要です。就寝前に服用すれば、夜中に掻いて悪化するのが防げます。