ピロリ菌と胃炎
青山伸郎・神戸大学医学部助手:朝日新聞(95-11-24)から
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六十二歳の女性。十月に胃カメラの検査で胃炎があると診断され、そのおりに「ピロリ菌を殺す抗生物質を飲んでおいたら胃炎、胃潰瘍、胃癌の予防になる」と聞きました。自覚症状がなくても検査で菌があれば殺す必要があるのでしょうか?抗生物質の副作用が心配です。
ピロリ菌
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正式にはヘリコバクター・ピロリという細菌。4〜8本の鞭毛を持つ。尿素を分解して胃の粘膜に潜り込む。1983年、オーストラリアで菌の培養に成功した。
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病気との関係は? |
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はっきりしているのは、ピロリ菌は胃の粘膜を荒らすことです。菌を飲む実験で胃炎ができました。オーストラリアの研究では、以下の割合でピロリ菌がいました。
● 十二指腸潰瘍 : 302例中の94%
● 胃 潰 瘍 :
105例中の62%
菌がいないのは痛み止めを飲んでいたのが原因で胃潰瘍になった人で、それ以上はほぼ100%です。
コ
メ ン ト :
この文より、胃の痛み止め薬で、逆に胃潰瘍になることがわかります。潰瘍が治っても薬を止めると再発していた人が、ピロリ菌を除去すると再発を非常によく抑えられました。
早期の小さい癌を取った後、約5年で約1割の人に2個目の癌が見つかるのが、除菌すると見つからないという報告もあります。
これより、前の項目で述べたように、ピロリ菌が白血球を刺激して、活性酸素を出し、胃潰瘍→胃癌へとつながることが理解できます。
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本当に予防になるの? |
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ピロリ菌がいると必ず潰瘍になると誤解して恐れる人がいますが、ならない人の方が多いんです。
100人の感染者で潰瘍になる人は3人、胃癌は0.5人。その人たちは予防になりますが、残りの96〜97は除菌しなくてもなりません。
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感染者は多いのですか? |
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北海道大の浅香正博教授によると、日本人約400人の調査で、以下のようにわかっています。
10代で約20%
20代で約30%
30代で約40%
40歳以上で75%前後
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どんな検査法が? |
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血液に菌の抗体があるかを見る方法、胃の組織を採って菌を培養する方法などがあります。抗体検査は感度が高いので出なければ、いないことがはっきりしていますが、擬陽性の場合があります。逆に、培養法は感度が悪く、陽性なら100%いますが、陰性の診断が難しい。複数の検査を組み合わせる必要があります。
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除菌すべき人? |
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大半の意見が一致しているのは、潰瘍になった人です。ピロリ菌がいても、そのまま何もなければ、ほっといても良い。潰瘍は70代もでよくみられますが、相談者の場合、これまで潰瘍になっていないので、あえて積極的に除菌する対象ではありません。それでも、がん予防などのために除菌したい人はいるでしょう。
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除菌はどうやって? |
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プロトンポンプ阻害剤という、胃酸の分泌を抑える薬と、抗生剤を組み合わせ、通常の治療の2倍の量を1週間から2週間飲みます。抗生剤は2剤または1剤。抗生剤2剤で除菌率85〜90%の良好な効果が得られています。
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副作用はどうでしょう? |
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一番多いのは下痢などの消化器症状です。報告は5%〜70%とバラツキがあります。飲み始めて3、4日後から2、3日という場合が多い。ひどいときは出血性腸炎が起きますが、私たちのところでは300例で1人も出ていません。また、抗生剤の一方はペニシリン系で、アレルギーの発疹が出ましたが、薬を飲み終えた後でした。
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費用はどうでしょう? |
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私たちは研究費を使って無料でしていますが、自己負担のところもあります。きっちりした判定と治療をすれば検査も含めて5、6万円ぐらいです。
欧米では、十二指腸潰瘍が多いが、日本人は胃潰瘍が多いなど傾向の違いがあって、欧米の報告が必ずしも当てはまらないため、日本人のデータを確認中です。データが集まれば保険が認められる可能性は高いでしょう。
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