よくビタミンが足りないからとか、ビタミンが体によいとか、ベータカロチンが活性酸素を落とすからという、非常に単純な根拠から医薬品や健康食品としてビタミン剤が販売されています。先ず、最も大切なことは、確かに、あるビタミンが極端に欠乏した場合は、しかるべき病気が起こることは確かなのです。例えばビタミンB1が極端に欠乏しますと脚気≠ノなり、昔、白米だけを食べさせた日本の軍隊で脚気がよくはやったものです。
ところが、大切なことは、食生活が豊かになり、栄養(学)が普及してきた現代において、ビタミンB1の欠けた食事は、ホームレスの人々を含めて、一般の庶民でもほとんで存在せず、病気を起こすほどのビタミンB1の欠乏生の方はまずありません。また、ビタミンCが極端に欠乏しますと、壊血病になったり、出血傾向が出たり、活性酸素が大暴れをするのは事実です。ところが、これも現代の文明社会の食事を摂って病気を起こす程の極端なビタミンC欠乏症に陥っている人は、まあほとんど皆無といっていいでしょう。それにもかかわらず、薬局で、また健康食品として日本で販売されている各種ビタミン剤の量はアメリカの10倍を超えるそうです。
あるもの(たとえばある種のビタミン)が極端に欠乏しると病気になる。そのある種のビタミンを、それが欠乏していない人に大量に与えても、なんら効果がないことを皆様どうか冷静に考えて頂きたいのです。野菜スープのように、ビタミン剤過熱ブームに巻き込まれてはいけません。これが、今の日本の、否世界の健康食品販売の実体で、科学的根拠を欠く大きな欠陥であるのです。
もう一つ、面白い話があるのですが、今から約15〜16年前、中国のある人里離れた山奥に、変なわけの判らない皮疹が全身に出て、全身の倦怠感を訴える難病、奇病が発生したのでした。アメリカの研究班が現地に赴いて、色々と調査した結果、それらの患者さんには、抗酸化作用(余分に出来た悪玉活性酸素を低下させる作用)のあるセレニウムという体に必要な物質が殆ど欠乏していとことが判りました。その調査の結果、その病気の住民にセレニウムあるいはセレニウムを多量に含有した食事をさせたところ、急速にこの地方のこの病気の患者さんが快方に向かったのです。
そのことが新聞で報じられるや世界中(日本も含めて)で、セレニウムを多量に含有した健康食品の販売が行われるようになりました。これは、前者のビタミン剤の話とまったく共通しています。極端にある栄養素が不足すると病気を起こしますが、ある程度の栄養成分が常時摂取されている人に、それ以上の栄養素を与えてもまったく意味がないのと同じなのです。
皆さん聡明な頭脳でよく考えて頂きたいのです。特にこの中国の山奥の住民は、一般の中国社会と隔離されており、伝統的にセレニウムの完全に欠乏した食事を摂っていたのです。従って、世界で稀にみる難病、奇病が発生したのです。日本の、あるいは世界の文明社会では、平生セレニウムの欠けたような食事は絶対に行われてないのです。セレニウムが極端に欠乏した住民に、セレニウムを飲ませて健康が回復したからといって、セレニウムを医薬品や健康食品でジャンジャン宣伝してよしとする。常時食事でセレニウムを摂っている健康な多くの人々にさらにセレニウムを飲ませるとは、商魂たくましいというか、非科学的というか、ナンセンスというか、よく考えると漫才のお笑いネタになりそうなことです。
また私を含む多くの臨床の医師が患者さんの治療に当たって、ビタミン剤(ビタミンCやE)の大量投与療法をある種の患者さんに行うことがありますが、ほとんど目立った効果の得られないことを十分経験しておられると思います。
ついでですが、もう一つ、似たようなよくある話があります。牡蠣肉エキスを売っておられる方には非常に申し訳ないのですが、牡蠣肉エキスには確かに銅、亜鉛が大量に含有されているため、銅、亜鉛の欠乏した患者さん(小人症、骨やコラーゲン組織の増成を制御、うつ病、アルツハイマー、アトピーの悪化などの原因になります)には効果がありますが、そういう銅、亜鉛の欠乏した患者さんは、そうざらに存在するわけではないのです。銅、亜鉛の含有されている食事を何とか食べている一般の皆さんに、銅、亜鉛の大量に入っている牡蠣肉エキスを大量に食べさせると、逆に過剰になり、関節リウマチ、肝炎の悪化などが起こってしまうのです。
こういう現象が、巷でごく一般的に見られます。絶対的にある物質が足らないために起こる病気と、その物質を過剰に与えて健康にさせようとするのは全く別の問題であり、こういう健康食品や、医薬品の宣伝文句には、皆さん、くれぐれもご注意下さい。
近年ますます劣悪化の一途をたどる環境汚染によって発生する大量の活性酸素が、様々な病気や癌、難病、奇病を数多く発生することが判ってきて、この活性酸素を除去する低分子、高分子抗酸化剤が注目され始めました。
この抗酸化剤の一つである高分子のカタラーゼが腸から吸収もされず、また胃で分解、失活するという基本的な原則も知らず、このカタラーゼを大量に含有している梅干しには活性酸素を除去する働きがあると大々的にNHKで宣伝放映する非科学性については、年齢とともに落ちるSODの適応能力でお話しました。
腸から吸収可能な低分子抗酸化剤では、ベータカロチンやビタミンCやEなどがあり、最近のベータカロチンの過剰ブームや、ビタミンCやEなどの健康食品の大量宣伝、販売は以上の科学的批判の対象になることが、これで皆様には十分ご理解頂けたと思います。
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