(a)ADの成因
以上のような活性酸素の増加した昨今、AD患者の激増、重症化について若干その因果関係について触れてみる。アトピー体質というのは元来、先天的に皮膚の角層の保湿機能が低下し、皮膚が乾燥し、乾燥性の皮膚炎を繰り返す。これを
xerotic dermatitis
という。それが嵩じてアトピー性皮膚炎が成立する。これは世界中の学者の認めるところである。昔は小学校へ行く学童期までにこの角層の保湿機能の低下が自然に回復して来て、私が医師になった頃は、小学校1年生のAD患者はみられなかったのである。
(b)何故ADは学童期になっても治癒しなくなったのか?
ところが、、以上のような環境汚染で活性酸素が激増する中にあって、生まれてきた子供は、皮膚の脂にその活性酸素が反応し、過酸化脂質を形成する。この過酸化脂質というのは、組織、臓器、皮膚に付着し、中へ浸透してくる性質がある。従って、乳幼児の患者の皮膚で、この激増した活性酸素と皮膚に存在すいる脂と結合して出来た過酸化脂質は、角層の中に浸透してくる。ところが、この過酸化脂質はその代謝過程において、アルデハイド基(−CHO)を有し、このアルデハイド基といのはエーテル基(−0−)と同じく、角層の保湿機能を奪う性質がある。アトピーの生まれてきた子供さんは元々角層の保湿機能が低下している。ところが、この過酸化脂質が角層に浸透して来て、角層の保湿機能を一層奪い、昔は小学校1年生までには角層の保湿機能の低下が自然に回復していたのだが、小学校へ行くまでの7年間、この過酸化脂質が角層に付着し、学童期になってもADが自然治癒しなくなったのである。そして7歳の子供と20歳の大人を比較すると、13年間20歳の大人の方が、この過酸化脂質が長期間皮膚に付着し、角層に浸透して来るため、それだけADが悪化するのである。昔はADの子供さんの皮疹は上・下肢の屈折部に限局されたが、最近は全身型である。これは、以上のような過酸化脂質が皮膚に付着する場合、場所を選ばず、顔面、露出部を中心に全身に過酸化脂質が付着して行く。従って、以上の理由で全身の大人のアトピーがどんどん見られるようになったのである。
(c)最近のADは露出部にみられる
もう一つ、昔のADは露出部に皮疹が見られなかったため、アトピーの患者さんをみても、一見ADだと判定できなかったが、最近ではこのような活性酸素によって、露出部に過酸化脂質が付着してADが悪化して行くため、一目見ただけで、“この人はADだ”と云う事が判るようになって来たのである。
(d)本邦5地区のAD重症地域
また、当病院の年間何千人の統計をとると、当院入院患者の出身地は、1位から5位までは、丁度その窒素酸化物の濃度に比例した地域から来られている。1位、2位東京、大阪、3位は博多から小倉にかけて、4位、5位は岡山、名古屋である。これは1位2位は窒素酸化物をばらまく自動車が何千万台ある。3位の北九州は明治時代からNOxを排出する八幡・小畑の製鉄工場が乱立し、日本最大の製鉄工場地帯である。4位5位は、重油を燃料とする水島と四日市の日本最大の石油化学コンビナートの存在するところである。もう一つ岡山は、水島化学コンビナートに加え、西境に日本最大の製鉄工場・日本鋼管が福山に存在する。名古屋は西境に日本最大の石油化学コンビナート四日市があり、東境に世界有数の自動車工場トヨタが控えている。いずれも窒素酸化物を大量にばら撒き、活性酸素を出す元凶の地である。この5地域からくるAD患者は重症患者が絶えない。また、当院に何千人と入院して来る患者さんは、全員2〜3週間で軽快・改善されて退院されるのであるが、100人中3人から5人は退院してもこれらの環境汚染のひどい地区に帰られた患者さんは、3ヶ月、半年、1年して露出部を中心にゆっくりと再燃し始める。これはどうしてもその環境汚染物質、活性酸素の洗礼を受けるからである。以上でADの最近の変化が理解していただけると思う。
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