ホーム > 「カロリーと肥満」

 
◆糖質こそが体調不良、病気の原因

 
   牧田先生は糖尿病の専門医として30年以上にわたって患者さんを診てきました。糖尿病には糖質制限というのは今やスタンダードな見解ですが、一昔前は、糖尿病には脂肪分や塩分少なめの和食がいいと言われていました。病院で糖尿病患者に出される味気ない食事の話はよく耳にします。ところが十数年ほど前から何人かの医師が糖尿病には糖質制限と堤唱し始めました。その先鋒ともいえるのが牧田先生です。
   いまやテレビや雑誌にもひっぱりだこ。お忙しいなか今回、糖尿病がなぜ怖いのか、食事がなぜ大切なのか。そして正しいがんの早期発見など、分かりやすくお話してくださいました。
 
―――先生の堤唱されている食事療法ですが、糖尿病の方、ダイエットしたい方などだけでなく、一流アスリートの方も参考にされていると聞きますが。
牧田先生(以下敬称略)「おかげさまで、始めは糖尿病の患者さんのためにいろいろやっていたんですが、ダイエットや美肌にもいいということで次第に女性誌の取材が増え、出版の依頼が増え、自分でも驚いています。アスリートの方が参考にしているかどうかは知りませんが、以前から僕のクリニックの患者さんには血糖値の自己測定をお願いしていて、その装置をサッカーの日本代表の長友選手も使われているとは聞きました。彼は食事に関する本も出されていて、一流アスリートの方は食事も大変気を使われていると聞きますね。彼らは痩せるためではなく、運動で下がりすぎる血糖値をチャックしているんです」
 
―――血糖値というのはそれだけ大事だということですね。
牧田「もちろん。血糖値が健康状態のすべてを決めると言っても過言ではないです。肥満は脂っこい食べ物を食べたからではなく、過剰な糖質摂取によって血糖値が上がったためです。そしてその肥満があらゆる病気の引きがねになるんですから怖いでしょ?血糖値が高いと免疫力が落ち、AGEという悪玉物質が体内で作られ、老化が進むんです。血糖値が高ければ血管も内臓も肌もぼろぼろになってしまうんです。それと、血糖値が安定しないことでイライラ、眠気、倦怠感、吐き気、頭痛などもあります」
 
―――血糖値を上げないためには糖質を極力避けることだとは思いますが、日々の生活の中で特に気をつけたい食品はなんでしょう?
牧田「糖質というとみなさんはご飯、パン、麺類などを即座に思い浮かべますよね。確かにこれらも血糖値を上げますが、それらよりも怖いのが、糖質たっぷりの飲み物です。缶コーヒーを始めとした自販機やコンビニで売っているペットボトル飲料(水や無糖のお茶は別)、コーラ、野菜ジュースなどには大量の糖分が入っています。ご飯やパン、麺類は胃の中で消化に時間がかかりますから、血糖値が急激に上がることはありませんが、飲料はあっという間に胃をする抜けて小腸で吸収されるので血糖値が一気に上がります。血糖値が急激に上がると、体はそれを下げるために慌てて膵臓から大量のインスリンを放出します。すると血糖値は急激に下がります。するとどういうことが起こるか」
 
―――どのような反応が?
牧田「砂糖たっぷりの缶コーヒーを1本飲めば、糖尿病のない健康な人でも30分後には血糖値が140くらいまで上昇します。(空腹時血糖値の基準は110以内)このとき体内では、セロトニンやドーパミンといった脳内物質が分泌されて、ハイな気分になります。だから気合を入れるには缶コーヒーがいいと誤解していまいます。次に血糖値が大きく下がると、今度はハイな気分から一転、だるくて眠い、イライラするなどの不快な気分になります。するとまた血糖値を上げる糖質が欲しくなる。こういうのを繰り返すことになるのです。いわゆる糖質中毒ですね」
 
―――体に害があって、仕事の効率も下がる。いいことはひとつもない。あまけに肥満の原因にもなりますよね?
牧田「やせたければ運動よりまずは食生活の改善です。昔は甘いものがそんなに簡単に売っていなかった。喉が渇けば水か麦茶が定番でした。今はどうです?100%のオレンジジュースに口当たりのいいスポーツドリンクや乳酸菌飲料。いかにも体によさそうなことを謳っていますが、中身は砂糖の塊です。今、肥満が多く、キレやすいと言われるのも、糖質中毒が原因の一端だと思います」
 
―――なるほど。先生の本を拝見して驚いたのがもうひとつ。カロリーと肥満は関係ない、脂肪は食べても太らない、というくだりです。これはどのようなメカニズムなのでしょうか?
牧田「長年、肥満の犯人は脂肪とされてきましたが、これはまったくの冤罪です。犯人は糖質だから。そのメカニズムは、脂肪を食べたからといって体の脂肪が増えるわけではないのです。食べたものは消化吸収の過程で新しい物質に分解合成されていきます。中性脂肪が高い、と言われると脂肪の取りすぎだと思われますが、糖質を過剰に摂ってブドウ糖が余ると中性脂肪が蓄積されるのです。よく、アメリカンな高カロリーな食生活が肥満のもとと言いますが、みなさんアメリカ映画の中の食事シーンに何が出てきます?分厚いステーキになにが添えてあります?山盛りのポテトフライがありませんか?それにデザートはアップルパイの上にアイスクリームがたっぷり乗っていませんか?直径50センチ以上ある大きなピザにバケツくらいのLLサイズのコーラ。これらの糖質を計測したらとんでもない量になります。そりゃ肥満になります」
 
―――そうなると油は摂ってもいいと?
牧田「パンだけを食べるよりもバターやオリーブオイルをつけて食べるほうが血糖値の上昇を抑えられます。これは信頼できる医学誌で報告されたデータによる事実です」
 
―――なるほど。ところで先生の一日の食事はどのような?
牧田「特にこれだけ、と決めてはいませんが、糖質の摂り方には自然と気を使っています。朝はパンを少し、バターかオリーブオイルを塗って食べます。それに豆乳とコーヒー。そしてたまに果物を少し。お昼は妻が作ってくれるサラダを山盛り食べます。忙しくて作れないときはデパートでサラダを買ってきて食べますね。夜はお魚か肉ですね。可能なら生肉を食べるようにしています。でなければしゃぶしゃぶ。そして白ワイン(笑)」
 
―――ご飯は食べませんか?
牧田「いや、外食でお寿司や天丼、ウナギなどのときは食べますよ。でも、普段の食事にどうしてもご飯とはならないですね。そもそも家で半年くらいご飯を炊いていないんじゃないかな。おかげで僕は40年くらいずっと体重は変わらないです」
 
   糖尿病患者は高い確率で、がん、脳卒中、心筋梗塞になる
 
―――牧田先生が糖尿病を専門として選ばれたのはどのような動機からですか?
牧田「40年くらい前に糖尿病の専門になることを選んだんです。内科医ですから、心臓外科のようなカッコよさはありません(笑)。しかし、その代わり、生化学という分野が大好きだったんです。これは人体のメカニズムを究明する学問で、亀の甲のような化学構造や体内で起きている化学反応を地道に学ばなければなりません。だからたいていの医者は不得手な分野です。医学部でも1、2年生の基礎医学で学ぶのですが、みんな試験に通ればいいくらいのものなんです。そんなことより臨床の経験を多く積むことのほうが優先されるわけです。でも、僕は今でもそうですが、世界中の医学論文を隅から隅まで読むのが趣味なんです。それを患者さんの治療に生かしていくのが責務じゃないかと。そのときに、糖尿病の合併症である腎不全からの人工透析になることを抑えれば解決できる病気だと考えたんです。みんなが血糖値を下げろ下げろと言うのは何の為にか、というと結果的に透析をしたくないからなんです。人工透析は1回4時間ほどかかる治療を週に3回くらい必要としますから、著しく生活の質が落ちるんです。もちろん、これまで同じよう仕事を続けることはほぼ不可能です」
 
―――そんな大変なことにはなりたくないですね。
牧田「でしょ?ところがこの人工透析患者さんはやたらと多いんです。(人工透析医学会によれば、患者数は年々増加し続けています。そのいちばんの原因になっている疾患が糖尿病です)糖尿病患者が行きつく先は必ずと言っていいほど透析になってしまう。そんなの誰でもいやですよね」
 
―――糖尿病というのは治らない病気なんでしょうか?
牧田「治りません。そのうえ、糖尿病があると、がん、心筋梗塞、脳卒中など日本人の3大死因である命に直結する病気にかかる率が、健常者よりも非常に高いのです。かんや心筋梗塞については誰もが怖さを知っていても糖尿病については甘く考えていますね。とくに働き盛りの男性は、太く短く生きるんだなんてこと言っていますが、そういう人間に限って糖尿病から人工透析になって後悔しています。実は、人工透析に入らざるを得ない人に、いい薬が出ました。これは私の本『医者が教える食事術 2』に出ていますから参考にしてください」
 
―――その薬で透析の患者さんを減らすことができるのですか?
牧田「そうなんです。ところが僕が提唱する通りのことができる先生がほとんどいないんです。もう検査の仕方から間違っている。いまだに日本糖尿病学会というのは、食事はカロリー制限が大事、カロリーの高い食事は血糖値が上がるから、などと言っているのです」
 
―――いまや牧田先生を始め多くの医師が糖尿病にはカロリーではなく糖質制限と言っているし、実際に臨床結果なども続々上がっているのに、どうしてでしょう?
牧田「自分が学んできたことがすべてだと信じているのです。世の中、そういうことがたくさんあるじゃないですか。スポーツの世界では昔、運動中に水は飲むな、飲むと疲れやすくなるからと言われていましたよね。今はそんなことしたらとんでもない。真夏に野球やって水飲まなかったらみんな脱水症状で倒れますよ。でも、どのことが改善されるまでに何十年とかかっていますよね。最近では、傷口の手当が大きく変わりました。以前は手術による傷も必ず消毒して乾かすことが常識だったのに、今は消毒はしない。傷の手当は湿潤療法になった。ケガして赤チン塗って消毒して乾かすなんていう昔の常識も今は非常識」
 
―――確かに。先生はこのような状況の中、糖尿病治療の従来の常識を覆されたわけですが、その根本にある生化学の知識が大事とおしゃっていますが?
牧田「人間の体には消化吸収のシステムが備わっています。それによって口から食べたものが消化され、形を変えた栄養素になり、必要に応じて吸収されていきます。この形を変えた、ということが大事で、食べたものがそのまま肉体の一部になるわけではなく、代謝の過程で構成を変え、さまざまな物質へと合成されていくのです。こうした仕組みを理解する学問が生化学といいます。医学的に正しい方について正しくアドバイスできるのは、生化学を理解している人間だけです。ところが医者、栄養士、スポーツトレーナーなど、人々の健康に寄与すべき人間が、テレビや雑誌、ネット上で食事に関する間違った情報を平気で発言しています。みなさん悪気はないんです。間違っているだけなんです」
 
―――私たちは、専門家が言っているのだから正しいと思ってしまいます。
牧田「その専門というのがやっかいなんです。例えば、ダイエットに糖質制限がいいか、カロリー控えめがいいか、ディベート(討論)して、僕に挑んでくる大学教授や医者はまずいません。生化学では勝てないのはみんな知っている。専門家といわれる人達の中で生化学をわかっている人はほぼいません。しかし、人間の体はほとんど生化学的なことで解明されているんですよ。ノーベル賞も生化学分野の研究が多いんです。インスリンの微量な測定法を見つけた学者が受賞しているのですから。他のホルモンなどを見つけてもノーベル賞は取れない。どうしてかというと、糖尿病はそれだけ重要な病気だということなんです」
 
   人間ドックで初期のがんはほとんど発見できない
 
―――先生は人間ドックされているのですか?
牧田「検査はしていますが、パッケージになっている人間ドックはしていないです」
 
―――医師の方でされない方が多いと聞きます。
牧田「みんなあれは意味がないと知っているからです。(ここで『人間ドックの9割は間違い』という先生の著書が)これをご覧になればすべて分かります。人って健康でいたい、長生きしたい、そう思って健康診断に一喜一憂しますよね。でも、いちばん大事なのは、がんを早くみつけて助かる、生き抜くということだと思うんです。なぜかというと、今後、国民の半数はがんになるんです。二人にひとりです。私の糖尿病の患者さんはさらにがんになりやすい。2000人の患者さんがいるとしたら、そのうちの1200人くらいが確実にがんになってしまいます。だから、僕は患者さんには首から下の胸部と腹部のCTスキャン検査をするように勧めています。CTというのは5ミリごとの断層の写真を撮るんです。そうすれば初期のがんでも半分は分かります。残りの半分は胃と腸の内視鏡カメラで分かります。現に毎年、うちの患者さんのなかでも50人弱にがんが見つかります。しかし、私の指導通りに検査をされ、治療した方はみなさんがんを克服して元気でいます。それはものすごく初期の段階で発見でき、治療できたからです。一方で多くの人たちが定期的に人間ドックをうけていながら命を落としています。これだけ早期発見のために定期健診をと呼び掛けていても、がんで亡くなる人は増え続けています」
 
―――逆に言えば、普通の検診ではがんはほとんど早期には発見できないということですか?
牧田「結果としてそういうことになりますね。女性のがんの死因の一位はなんだと思いますか?」
 
―――乳がんでは?
牧田「いえ。大腸がんなんです。乳がんは自分でも早期発見しやすい。しかし大腸は健康診断や人間ドックで、腹部超音波検査と便潜血という便で調べる方法しかやっていないんです。こんなの全く早期発見にならない。小さいがんなど出血しませんから。出血するくらい大きくなっていたらもう危ないんです。男性の場合は肺がんが多い。これも健康診断ではレントゲン(胸部X線検査)だけです。これだと2センチくらいに大きくなったがんでないと分からない。ましてや今は、環境が悪化しています。田舎に住んでいてもPM2.5はきます。タバコをやめる人が増え、30年前に禁煙していても、がんのリスクは続くんです。そうしたら、レントゲンだけでは心配ですよね。CTで調べないと早期発見はできません」
 
―――人間ドックや健康診断のメニューに内視鏡カメラやCTなどの検査法を入れないのはどうしてですか?
牧田「簡単なことです。お金と手間が足りない。サラリーマンはたいてい会社から年一回の健康診断を受診するように促されます。それらの費用は、保険組合が支払う。組合には社員と会社が保険料を支払う。となると、組合や会社は費用をできるだけ抑えようとするのが当たり前です。つまり従来のバリウムを飲むレントゲン検査が安価なのです。バリウム検査は結構な量の放射線被爆を伴います。そして医師より安価なレントゲン技師が行います。初期のがんはまず発見できません。かといって胃カメラや大腸カメラは技術が必要で、そんな医師に検査を頼む金銭的余裕はありません。おのずと腹部超音波検査と検便になります。それでがんが発見された時には手遅れになりかねません。あと、オプションで腫瘍マーカー検査がありますが、これも意味はないです。腫瘍マーカーはがんがかなり大きくならないと反応しません。そもそも腫瘍マーカーはがん患者が薬の効果などを診るための目安に使うものです」
 
―――最近、中国の富裕層がツアーに組み込んでいるという、高級な人間ドックなどなら見つけられるのでしょうか?
牧田「ホテルのよな設備でフレンチ料理が出されるようなところがありますね。安かろう悪かろうはもちろんダメですが、かといって高級ならいいかというとそうでもありません。人間ドックにとって最高のサービスは、怖い病気の早期発見と、最善のドクターの紹介だということを忘れてはいけません。高いお金を払うだけの意味があるのかないのか、よく内容を吟味したほうがいいですね」
 
―――いずれにしても、健康診断などの保険でまかなえる検査ではなく、個別にきちんと検査をしたほうがいいということですよね。
牧田「残念ながら今の日本の健康診断ではそういうことになります。個別に検査をすれば余分にお金がかかります。健康保険制度に慣れている人にとって決して安いものではありません、しかし、考えてみてください。命より大事なものはないはずです。検査方法を間違えて見落とさなくてもいいがんを見落とし、助かるはずの命がなくなるということがないように」