ホームBOOK紹介 > 「ウイルスにもガンにも野菜スープの力」 〜体の中からコロナに勝つ〜 前田 浩 名誉教授
 

 Book 028


『ウイルスにもガンにも野菜スープの力』
〜体の中からコロナに勝つ〜

前田 浩 名誉教授 著

 

 
   新型コロナウイルスによって日本だけでなく世界中が大きく変わりました。こんなに医学が進歩しても、自動運転だAIだと科学が進歩しても、たったひとつのウイルスで世界中が大混乱に陥りました。しかもその解決策が、3密を避ける、ソーシャルディスタンス、マスク着用、不要不急の外出を控える、こまめな手洗い、うがいといったアナログなものばかりというのも驚きでした。特に、当初は専門家たちも、発症したら個々の免疫力に頼るしかないといっていました。実際、亡くなられたり、重症化の危険性があったのは、免疫力が低下している高齢者と、がん、糖尿病などの特病を抱えた方々が多かったと言われています。「免疫力を高める」という発言により、スーパーの棚から納豆やキムチなどの発酵食品が品切れになったといいます。「免疫力を高める」これはコロナ禍だけではなく、すべての病に共通するワードではないでしょうか。
   今回は、こんなときだからこそぜひ読んでもらいたい本『ウイルスにもガンにも野菜スープの力』を紹介します。著者の前田浩医学博士はハーバード大学がん研究所の研究員を経て熊本大学教授(現在名誉教授)大阪大学や東北大学などの招へい教授などを歴任された方。経歴だけをなぞっていくと、西洋医学の王道を行く方なのですが、ハーバードと熊本大学で続けた研究のなかで、世界初といわれる副作用のない合成高分子をつないだタンパク質の抗がん剤「スマンクス」を開発したのです。この開発により、前田教授は、なんとオプジーボでノーベル賞を受賞した本庶教授と同じ時にノーベル賞候補にあがっていたのです。
   これらの開発の過程で、「そもそもがんはなぜできるのか。がんと炎症の関係、ウイルスと炎症の関係、そしてこれらと大きく関わっている活性酸素の存在を知りました」
   そもそも先生の専門は細菌学、微生物学、ウイルス学なのです。そのために最先端の研究を行っているアメリカに渡ったとか。ですから、「細菌やウイルス感染でどうして病気が発生するのかという研究も続けていました。そのひとつがインフルエンザの感染症発現のメカニズムです。マウスにウイルスを感染させたとき、実はウイルスそのものの毒性よりも、活性酸素が肺炎など発病の原因になることを発見したのです。ならば大量に発生した活性酸素がDNAを傷つけ、がん化の原因になるのではないか、すなわち活性酸素を抑えることができれば、ウイルスにもがんにも打ち勝てるのではないかと考えました」
   がん化に活性酸素が大きく関わっていることは、丹羽先生の長年の研究や論文でも明らかです。昨今では、がんだけでなく、老化やリウマチ、アルツハイマーなどの発症にも活性酸素が深く関わっていると言われています。さらにウイルスも関わっているというのは初めて聞くお話しです。ただ、見方を変えれば、これはひとつの望みではないでしょうか。丹羽先生は著書や講演会などでいつも「私が研究開発したSOD様作用食品などは、活性酸素を強力に抑える効果がある」
   と言っています。つまり、活性酸素をSODで抑えることができれば、がん細胞ができにくく、インフルエンザや新型コロナウイルスによる肺炎も予防できるということかもしれません。
   では、どうして新型コロナウイルスなどに感染して重症化すると肺炎になるのか。前田先生は「ウイルスが肺に侵入すると、そのウイルスを殺すために免疫をつかさどる白血球から大量の活性酸素が放出され、ウイルスは全滅します。ところが、大量に放出された活性酸素は行き場を失い、今度は肺の細胞を攻撃して炎症を起こし、発熱や肺炎に至ります。ウイルスは死に至る病気の引き金ではありますが、直接の病因、死因は増えすぎた活性酸素だったのです。つまり、ウイルス侵入後でも活性酸素を少なくすることができれば、発症の予防になるということです」
 
   加熱した野菜こそ抗酸化力を発揮
 
   そこで前田先生は、活性酸素を抑える抗酸化作用のある物質探しを始めました。そしていろいろ試みた結果、野菜の持つ抗酸化力に着目したのです。と同時に野菜の持つ栄養素を吸収する力に着目しました。「草花や野菜などの植物は、自然界の強い紫外線に晒され、カビや病原菌、害虫の攻撃も受けているのに、なぜがんにならないのか。それは自身の中に身を守る仕組みを整えたと考えられます、ファイトケミカルです。直訳すると植物性科学物質であり、細胞の中に含まれる成分であり、植物の色や香り、辛み、苦みなどの元となる機能性成分です」
   ファイトケミカルというとよく耳にするのがトマトのリコピン、お茶のカテキン、ニンジンなどのベータカロテン。これらには強い抗酸化力があると言われています。前田先生いわく「ファイトケミカルの強い抗酸化力はウイルスの浸入などで発生した活性酸素を中和、除去してくれるのです」
   この本には、抗酸化力が高く、がんやウイルスの予防効果のある野菜が列記されています。例えば細胞の修復などを促進するのは緑黄色野菜、ほうれん草、小松菜、ニラ、大根の葉、人参の葉。肝がんの発生を抑えるのは野菜全般とシイタケ。ただし、このれはやみくもに摂ったからといって効果があるわけではないそうです。野菜はすべて加熱して食べることで効果があるとか。
   どういうことかというと、これまでの栄養学では食材の持つ栄養素を試験管の中でしか調べていなかったそうです。実際に人の体内に入って吸収された初めてその栄養素の意味があるといいます。「栄養学も大事ですが、もっと大事なのは人の体内でどうすればどれくらい効率よく吸収できるかという、吸収学なんです」
   そこで前田先生が研究を重ねて得たのが、野菜を加熱することでした。「野菜の植物細胞は、細胞をくるむ膜とそれを丸ごとくるむ細胞壁の二重構造になっています。外側の壁は硬い構造物で、私たちが少々噛んだくらいでは壊れません。ミキサーにかけてもなかなか壊れません。ところが加熱するとすぐに破壊して、中の有効成分、ファイトケミカルが外に出てきます。つまり、野菜の栄養成分を吸収するには煮る、炒める、蒸すなどの加熱によって細胞壁を壊してから食べることが大切なのです」
   加熱するとビタミンが壊れてしまうから、野菜は生で食べたほうがいい、と言われていたのは、試験管の中の実験で得たもので、実際の吸収とは異なったようです。「生で野菜の有効成分の90%が細胞の外に出てこないから、吸収されないんです」
    実際にじゃがいもを30分加熱したところ、60%ものビタミンCが残っていたそうです。「実験室の結果やデータだけで作られた誤った情報が伝わっているということを私たち研究者は知らなくてはならない。私がハーバードで学んでいた頃、生理学の教授は、今日の医学の教科書の内容の半分は間違っているか、想像によるもので、諸君の使命はその誤りを正し、新しい知見を発見することです、といっていました。一方日本では、教科書の手順を100%守ることが医師の使命と教えていました」
   化学の世界は日々進化して、昨日までの常識が明日は非常識になるかもしれない。以前、取材させていただいた糖尿病の治療で著名な牧田善二先生も、今や糖尿病の治療はカロリー計算ではなく、血糖値をコントロールする糖質制限があたりまえだとおっしゃいます。しかし、「いまだに日本糖尿病学会は糖尿病の食事はカロリー制限が大事と言っているんですから、間違っている。昔は運動中は水を飲むと疲れやすくなるから飲むなと言っていた。今はそんなことしたら脱水症状でみんな倒れてしまいます。巷の健康法も間違いがいっぱい」と言っていました。
   前田先生のアプローチとは方法等、いろいろ違いはありますが、丹羽先生の生薬やSODも、基本は食物の持つ高い抗酸化力に注目したところから開発されました。丹羽先生いわく「天然の植物の中には抗酸化物質が非活性型で存在しています。それを人間や動物が食べて、強力な唾液や胃液で活性型にしていたけれど、現代人の胃液や唾液にはその力がなくなってしまった」
   そこで天然の生薬、食物種子を吸収できるようにするために丹羽先生は、遠赤外線焙煎、麹発酵、油剤化という工程を経て吸収できる活性型にしたのです。
   病気の元は増えすぎた活性酸素。それを除去するのは野菜などのファイトケミカル。それも効率的に吸収できるようにしたものでないといけない。前田先生も丹羽先生も同じ原理でした。
 
   余った野菜を30分煮る冷凍保存もできて手軽
 
   さて、最後に、前田先生お勧め、野菜スープの作り方を紹介します。
   多種類の野菜を使うことがコツで、よく使う野菜は、玉ねぎ、にんじん、キャベツ、かぼちゃ、セロリやブロッコリーなど。食べやすく切るか、ミキサーで砕ける大きさにして、これにほうれん草や小松菜なども一種類入れ、2〜3リットルの水で30分から1時間煮る。たったのこれだけです。「塩分は控えめにしたいので、基本的には味付けはしません」
   野菜のうまみだけでも十分美味しいとか。ときには味噌や岩塩、だし醤油を入れるとなお美味しいでしょう。また、オリーブオイルやコンソメを入れて洋風にしてもいいそうです。前田家ではこれをミキサーにかけ、ポタージュのようにして冷水ポットに移して冷蔵庫で保存し、毎日マグカップ一杯を温めて飲むとか。ポタージュにして冷凍もしておけるから、毎日作る手間もなく、お手軽に常備スープになります。「余った野菜やキノコなど、なんでもいいんです。それにターメリックなどを入れてカレーにすると、抗がん効果や抗炎症効果もあります」
   考えてみれば、野菜スープという名でなくても、シチュー、ポトフ、ボルシチ、ブイヤベースなど世界中に野菜などの煮込み料理が昔からあったわけです。日本の鍋料理も、残ったスープにご飯やうどんを入れてしめで食べることも野菜のファイトケミカルを取り入れていることになります。
   この本には、野菜スープだけでなく、炒め物などの健康調理法レシピも豊富に載っています。 また後半では、がんと食生活についての話や、グローバルな時代の新しい健康常識についても書かれていて、読んでいくうちに本当に健康な食生活とは何かが分かってきます。
   前田先生は、他にも冒頭に先生のプロフィールとして紹介した、がんの研究による「副作用のない抗がん剤の誕生。がん治療革命」(文芸春秋社刊)という本の中でも詳しく紹介されています。現在、先生のいらっしゃる熊本大学には、世界中からがん患者さんが訪れるといいます。先生は言います。「がんの発生から治療にいたるまでの問題には原因がひとつではなく数多くあり、また、結果が複数の結果を引き起こす複数形の世界なのです」
   つまり、昨日今日、何かはっきりわかる原因でがんになるのではなく、長年の生活習慣やストレス、持病等が複雑に混じりあってがんになると。その治療法も一か所のがんを叩いて、それだけで解決にならないことが多いとか。
   莫大な研究費を注いで、莫大な健康保険補助を使い、結果未だにがんで亡くなる患者さんの数は減らない。「薬剤の認可は100年も前の原則にとらわれていて評価され、ことごとく失敗している。新薬開発にはもっと多面的で多次元的な考え方をしないといけない。抗がん治療がいまだ前進しない理由の一つかもしれない」
   本の中には、70歳を過ぎたらがんの化学治療はしないほうが長生きをする。抗がん剤のプロの私が、がんの予防を訴える理由。植物由来の食品成分の有効性と可能性。といった項目もあり、単なる野菜スープ一杯が、驚きの展開を示してくれます。
 

 


209