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『信じてはいけない健康診断』
〜健康な人を病気にするのが今の医療の実態〜

近藤 誠 講師 著

 

 
   今回紹介するのは2020年の年始号として発表された雑誌『プレジデント』の特集記事です。「信じてはいけない健康診断」というタイトル。一家に一冊保存版と記されています。もう書店には置いていませんが、ネットや出版元の通販で今でも手にすることはできるはずです。
   この健康診断に関しては、丹羽先生のインタビューや、様々なドクターたちが著書や取材の中で、一般的な健康診断は意味がないというお話しを紹介してきました。また、週刊誌などでも盛んに、一般的な健康診断にあるバリウム検査は被爆値が高い、初期がんは発見できないなどといった記事を目にするようになってきました。しかし、現実として周囲では相変わらず健康診断を受けることが健康のバロメーターだと信じて疑わない人がほとんどだと気づかされます。
   そこで改めて、今回『プレジデント』
の特集を紹介したいと思います。冒頭の文によると、日本人は世界一健康長寿なのに、自分を健康だと思う人の数が世界一少ないそうです。身体の不調がないのに健康診断を受け続け、数値を見ては一喜一憂する。そんな日本人の健康不安の正体がなにかを、近藤誠先生が教えてくれています。近藤先生といえばベストセラーになった『患者よ、がんと闘うな』が出版されて早25年。その時から抗がん剤治療に警鐘を鳴らし、その後も医学界の間違いに堂々と立ち向かっています。このBOOK紹介でもたびたび先生の著書は紹介しているのでお馴染みではないでしょうか。
「医療とは人々を病から遠ざけ、心身を健康にするためにあると信じている人は多いと思います。しかし、それが当てはまるのはやけどやケガ、新生児医療といった緊急を要する場合だけ。自身が健康だと感じているのならむしろ医療には関わらないほうがいい。健康な人を不安にし、わざわざ病人に仕立て上げるのが、残念ながら日本の医療の実態だからです」
   と切り出し、健康診断や人間ドックによって異常がみつかれば、何の自覚症状もなく普通に元気な人も薬を処方され、病院はもうかるようにできているといいます。「痛い、苦しいという自覚症状がある人だけを相手にしていたら医療産業は成り立たないんです。異常に低く設定された数値によって、高血圧や高コレステロールと診断された人は、単なる老化現象かその人の個性であって本当の病気ではないんです。基準値を外れたら病気だという科学的な根拠はありません」
   数値の仕組みがわかれば、健康診断の是非もおのずと見えてきます。さらに健康診断で行う検査の方法、内容に関して多くの識者が警鐘を鳴らしているといいます。とくに「胸部X線検査」と「胃のバリウム検査」は、メリットよりもデメリットのほうが断然多く、むしろ受けないほうがいい、と言われています。それはどうしてか、に対してコメントをされている医師のひとりが、先日のインタビューにも登場してくださった、糖尿病の第一人者、牧田善二先生です。先生は『人間ドックの9割は間違い』という著書のなかでも、パッケージされた健康診断は受けないほうがいいと、事細かに教えてくれています。『プレジデント』のなかでも、「胸部X線検査では、がんが2〜3センチ大になっていないと見分けられない。その段階ではすでにがんはかなり進行した状態になっています。バリウム検査も残念ながら初期のがんは見落とされます。さらに結構な量の被爆の危険が伴うことも忘れてはなりません」
   といいます。牧田先生だけでなく、新潟大学名誉教授の岡田正彦先生も、東海大学名誉教授の大櫛陽一先生も、首都大学名誉教授の星旦二先生も同様にこれらの検査は無意味だといいます。
   それでもこれらの検査を行うのは日本では国が義務づけているからだそうです。先進国の中で国をあげて健康診断を行っているのは日本だけだとか。大櫛先生は「欧米諸国が健康診断を実施しないのは、国費をつぎ込んでも国民の死亡率が低下したといった費用対効果を示すエビデンスがないからです」
   つまり、健康診断をしてもしなくても病気による死亡率が変わらないということではないでしょうか。大櫛先生いわく「でも、検査での血圧検査や血液検査は有効です」
   といいます。ただし「注意すべきなのは検査結果の読み方です。判定値を利益相反のある臨床学会が決めて厚生労働省がそのまま使っていますが、実は疑問があります」
   ここが重要です。利益相反というのは、一方の利益が他方の不利益になることを指し、医療の現場で一般的にいわれているのは、患者さんの利益と研究グループや製薬企業などの利益が相反している状態などがあげられます。(医学研究支援センターHPより)
   丹羽先生もよくいいます。「血圧の判定値を低くすれば高血圧患者が増え、医者は患者さんが増え、製薬会社は薬が売れ、もうかるんです」
   そんな中で決められた基準値ですから、読み方が大事になるということです。日本では140oHg(以下単位省略)以上で高血圧と診断され受診先で降圧剤を処方されてしまいます。大櫛先生は「日本の基準は、比較的若い人の基準をベースにしています。血圧は年齢や性別によってかなりの違いが出てきます。加齢とともに血圧が高めになるのはむしろ自然なこと。50歳後半の上限は160くらいです」
   これに関しては丹羽先生も「血圧は160までなら薬なんかいたないです。血圧も個人差があるし、一律に数字だけで決められない。160以下でも頭痛がひどくめまいがするというのであれば薬を飲んだほうがいいし、160を多少超えていても、元気なら大丈夫。数字だけに頼るのは危険。数字はあくまでも目安で、大事なのは自覚症状です」
 
   血液検査などは必要。大事なのは検査結果の読み
 
   検査結果の読み方≠ナ注意しなければいけない(基準値を信じてはいけない)のは血圧だけではありません。みなさんがコレステロールでよく、善玉(HDL)、悪玉(LDL)コレステロールで、悪玉が多いと動脈硬化や心筋梗塞になるといわれませんでしたか?数年前まではテレビの健康番組や雑誌でしきりと悪玉コレステロールを減らす食材はコレと特集されていました。ところが、最近は、様々な学会や医師、専門家から、コレステロールはHDL(善玉といわれている)もLDL(悪玉といわれている)も体の各部にたんぱく質と脂質を運ぶ、きわめて重要な栄養分の塊だといわれています。そのことは世界的な学会でも認められているそうですが、日本のLDLコレステロール値の基準は、120〜139が保健指導の対象で140〜179が受診奨励、180以上が要治療となっています。大櫛先生はこの数値に対して、「アメリカのガイドラインでは診断基準は190以上となっています。私の研究でも、女性や中高年の場合、高めでも問題ないことが分かりました。そもそもLDLコレステロールは、細胞膜や脳の神経細胞、ホルモンの原料として欠かせない物質です。それなのにわざわざ薬を使って減らそうとしている。その薬には、筋肉の溶解や糖尿病などを引き起こす副作用も報告されています。糖尿病の原因となっている、血糖値を下げるインスリンというのが、そもそもホルモンの一種で、それがコレステロールをさげることにより、減少してしまうという悪循環」
   アメリカでは190が日本では120というこの数値の開きの大きさが、すなわち検査結果の読み方≠ノつながるのではないかと思います。
   逆に判定値が甘すぎるといわれているのが糖尿病の指標ともなる血糖値。空腹時血糖値の基準が100以上なら保険指導の対象で、126以上なら受診奨励となっています。しかし大櫛先生は「私が割り出した健常な人の上限値をはるかに超えています。20代の女性は100でも健常の範囲の上限を超えています。糖尿病は早めに手をうてばそれだけ予防効果が高まります。さらに受診奨励値の126はすでに糖尿病レベルです。これでは重症化するまで放置しろと言っているののと同じです」
   正しい読み方をしないと大変なことになりそうです。
   今回の特集記事には、健康診断の矛盾点だけでなく、ヤブ医者の見分け方や、転院したときにすべきこと、健康神話の徹底検証など盛りだくさん。とくに興味深かったのは、関節に効くと言われているグルコサミン、肌にいいといわれているコラーゲン、骨粗しょう症にいいといわれているカルシウム剤などは、まったく効果がみられないという専門家たちのお話し。
   さらに医師が飲みたい薬、飲まない薬の話や、今、歯科医院は虫歯を治しに行くところではなく、生活習慣病を防ぐところといった記事など盛りだくさん。ぜひ一読してみてください。
 

 


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