ホームBOOK紹介 > 「健康問答」 〜本当のところはどうなのか、本音で語る現代の養生塾〜 五木寛之・帯津良一
 

 Book 003


『健康問答』 〜本当のところはどうなのか、本音で語る現代の養生塾〜
五木寛之・帯津良一

 

 
   今回は、日本を代表する作家、五木寛之氏と統合医療の先駆者、帯津良一医学博士のふたりが健康ブーム、代替医療ブームで盛んに行われている健康法に疑問を投げかけた一冊を紹介します。
   五木氏の「世の中には『これ一つで十分』というような言い方が結構あるものだ。たとえば『玄米さえ食べていれば―――』とか『背骨の歪みをまっすぐに直すことで万病が治る』だとか、これ一つを大事にすれば、なにもかも解決するような話が少なくない。私は、これは怪しいと思っている。世の中というのはそんなに簡単ではない。人間もすこぶる複雑にできている。これ一つでなにもかもがうまくいくわけがない。民間療法などで『これ一つをやれば、すべて大丈夫』というようなことを平然という人は、疑ってかかるべきだろう」
   という書き出しで始まり、「これ一つではダメといっても、できるだけ多くの視点からものを見る、というのにも限りがある。ではどうするのか。せめて二つの立場から考えてみる、というぐらいが精一杯だろう。西洋医学も尊重するが、東洋医学も決しておろそかにしない。理論もばかにせず、経験からくる直感も大事にする。本書のなかで私の疑問に、名医である帯津さんがときどき『どちらともいえない』とおっしゃるときがあってとても信頼できる感じがする」
   と言う一冊。
   こんな五木氏が投げかけるいくつかの素朴な疑問たちは、目次を繰だけで思わず引き込まれてしまいます。
   丹羽博士もいつも言っています。「東洋治療のいいところと、西洋治療のいいとことを取り入れて、それぞれの症状や体質に合わせた治療をしなければいけない。100人患者さんがいたら、100とおりの治療法があるのが医療だ。膨大にある健康補助食品や代替医療も、ひとつずつは1の力しかなく、これらが集まって効果が大きくなっていくものだ。ましてや西洋医療の知識がなく、宗教のようにこれひとつでがんが治ったとかいって、集会を開いて、たいして重病でもない人が演台に立って、私も治った、と拍手喝采を浴びるような民間療法はあかん」
   これは丹羽博士と帯津博士との対談でも盛んに話題に上がり、互いに一致した意見でした。
 
   流行医療の常識を疑う
 
   この「健康問答」は7章に分けられ、食、健康常識、現代医療、がん療法、人気療法などの項目で話題の療法や日ごろ言われている常識等についてお二人が対談しています。
   五木氏が「最近よく言われる、水はたくさん飲まなければいけにというのはどうなんですか?」と聞けば、帯津博士は「水を飲んで血のめぐりやリンパ液などの循環を良くするためにはいいけ、心臓や腎臓に疾患のある人が水をたくさん飲めばかえって負担がかかるので良くないですね。程度問題で、体の欲求に合わせて飲みたいときに飲むというほうが自然だと思うんです」と答え、五木氏が「一日に何t摂りなさいと言われても体重40`の人と80`の汗っかきの人とでは違いますよね」
   要するに、健康な人が循環をよくするために、適度に摂るのがいいのではないかといった、人それぞれに違う、結論の出ない答えが読んでいて、とても納得できるのです。
   こんな感じで、ゲルソン療法で言うところの塩分はあまり摂らないほうがいいというのも、おふたりの話では、塩分はある程度必要で、いい塩はある程度摂ったほうがいいとなるのです。なんでもかんでも減塩が流行っていますが、帯津博士は、無塩よりは少し摂りすぎのほうがいいんじゃないかと言っています。
   また、玄米菜食は一つの思想で、その思想に共鳴し、おいしく食べられる人が続けばいいと。
 
   免疫力・抵抗力は必要に応じて
 
   抗菌、防菌対策はほんとうに病気を予防できるか、といったテーマも興味深い。ノロウイルス、O-157などが流行ると、必ず外から帰ったらうがいと手の殺菌をして予防しようといいます。実際のところ、お二人の話からすると、昔は手なんか洗わなかった。ちょっと腐ったまんじゅうを食べて下痢をしてもそのままで治っていたそうです。O-157が流行ったとき、同じ給食を食べていて中毒になった子とならなった子がいて、感染した子は手をいつも良く洗っている子だったといいます。つまり、日頃から無菌状態にある子は、抵抗力、免疫力がないといいます。そもそも免疫というのは必要に応じて出てくるし、必要がなければ退化していくものだそうです。
   「あまり除菌、殺菌、抗菌に過敏にならないことですね。『抗』抗う(あらがう)というのはあまり良くないですね。アンチでしょ?抗生物質、抗がん剤・・・それにアンチエイジング。どれも不自然ですね」
   という帯津博士のひとことが印象的です。次に温泉は万能の養生塾か。
   これも最近がん患者の間で人気の玉川温泉について触れ「患者さんにいろいろ聞いてみると、温泉のいちばんの効能は、お湯そのものの効果というより、お湯に入ってリラックスすること自体がいいようなんですね。でも、玉川温泉の場合はみんなリラックスじゃなくて、闘いに行くわけです。岩盤浴でがんばるでしょ」(五木氏いわく「がんばり浴」)
   と言います。なんでも、玉川温泉は場所取り合戦で殺気立っている。リラックスとは程遠いのはいかがなものかと。
 
   たどり着く先は統合医療
 
   日常にある常識の疑問から、後半はがん療法へとスポットが当てられていきます、そのいちばんのトピックスは、手術、抗がん剤、放射線の三大療法はすべきではないか、というテーマです。
五木「最近アメリカでベストセラーになった本ではがんという診断が下されたら、かかりつけの自然医かヒーラーのところに行きなさい。絶対に手術をしたり、抗がん剤や、放射線治療を施す西洋医学のところに行ってはいけない≠ニ断定したりもしています。日本も、免疫療法の理論を唱える安保徹博士は、抗がん剤、放射線、手術の三大療法は避けるべきと言われています。そのへんはどうなんでしょうか」
帯津「安保さんは三大療法を嫌うんです。がんをはじめ難病の原因は、すべて自律神経のなかの交感神経と副交感神経のアンバランスで説明がつくんですね。つまり簡単に言うと交感神経優位が続くと、白血球のなかのリンパ球が少なくなり、顆粒球が増える。顆粒球が多くなると活性酸素が体内に生まれて、それが病気の原因になる。だから病気になったら、交感神経優位から副交感神経優位の体にしなければならないと。そうなると免疫作用が高まって病気が快方に向かうという理論なんです。私は基本的にはこの安保理論は正しいと思います。真理だと思う。百年くらいするとかなり安保理論が医療の中心に入ってくると思います。ただ、今の段階では我々臨床医は、武器はいっぱいあったほうがいい。西洋でも東洋でも民間でもなんでもいいから良くなることが究極の目的なんですから、今の段階では三大療法も捨てられない」
   これも丹羽博士がいつも言っていることと同じです。
   このように、様々な疑問にあらゆつ方向から答えてくれている「健康問答」。帯津博士は後書きにこのようなことを書いています。「統合医療とは、西洋医学と代替医療の統合であるが、これは単なる足し算ではなく、積分のことである。合わせてまったく新しい体系の医学を生み出そうというのである。並大抵のことではない。それでもいつかは統合医療にたどりつく。たどり着いた暁に、前方にホリスティック医学が姿を現すことは間違いない。ホリスティック医学は病というステージに止まらず、生老病死、さらには死後の世界までが対象となる。心と命が対象である」
   とにかく読んでいると、健康に関する様々な噂や情報に振り回されず、自分の体に正直にゆるやかにリラックスできる精神が大事だと感じさせてくれます。
   正直、ほっとする一冊ではないでしょうか。
 

 


101